韓 丘庸





自分史「渦巻く海峡」に問う


 今年は日本が第二次世界大戦で自滅し、大日本帝国が崩壊し60年を迎えた。それはまた一方、朝鮮半島が日本の植民地統治から解放されて、66年目の節目にもなる。
 在日朝鮮人社会においても既に戦前玄海灘を渡ってきて、この客地で精←杯生きた祖先も殆どこの世を去り、その親の背中を見て育った二世も既に還暦や古希を迎え、多くの孫に囲まれる老境の年になった。
 在日朝鮮人作家の辛榮浩氏が問う『渦巻く海峡玉は、まさにその一世の後を次いでこの地で生きた作者の青春陳を等身大で描いた自伝小説である。
 作品は、作者の出目をベ一スに進められる。主人公辛栄浩は故郷朝鮮から渡日した両親が軍用工事現揚では朝鮮人が虐待されたり、除外されたりすることを知って、住居を転々と移し、英吉も池田、春日井、平、中舞鶴、鳥羽と国民学校の転校を繰り返した。
 そうした中で、民族的な誇りも持てず、偏見と差別の中で苦しんだり、自暴自棄になったりしながら、中学、高校、大学と進み、やがてその葛藤の末、民族的アイデンテイテイとパーソナリテイを自分のものにしてゆく過程を描く。
 作者は、長年教職に携わってきた。1959年に京都朝鮮中高級学校に赴任し、外国語科教諭、分科長、学年主任、教務主任を歴任、その後1995年まで京都朝鮮第一初級学校長の重責を担って子弟の民族教育に尽力した。
 また、その一方では、在日本朝鮮文学芸術家同盟京都支部の結成に参加、様々な機関誌や会誌に数多くの作品を発表し、今日まで京都における在日同胞の文芸活動でその中心的役割を果たした作家の一人である。
 殊に彼の文章の清澄さは定評があり、「歯車の音」侠芸創造・創刊号)、「老いの峠路』(群星・6号、文芸同京都支
部)、「故国未だに遠く」(草笛・2号、京都日朝友好交流文芸誌)等の斬新な作品は好評であった。
 今在日同胞社会が、三世、四世と世代交代を余儀なくされている環境の中で、「民族的風化」を指弾する声は何時になく厳しい。
 『渦巻く海峡』は単にこの作者の辿った自分史にだけ極限される文学書ではなく、厳しい半世紀を果敢に生きた在日の崇高な歴史であると共に、今を生きるわたしたちへの大きな指針にもなる価値ある歴史書でもある。
 今、韓国や中国で反日デモが起こり、日本に対して「歴史の負の免罪符」としての「戦後処理の未熟さ」が改めて問われている。
 こうした中で問い直される作品だけにこの本は原点に立ち返って、歴史と民族を考えるいい機会になるのではないだろうか。







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