韓 丘庸





韓国の人気漫画へのいざない

 韓国劇画界の第一人者である房学基が「韓国版・デカメロン」(河出書房新社)や「劇画・韓国短編巡礼」(南雲堂)、「李朝水滸伝」(JIC出版局)を上梓して一躍有名になったのは1985年、もう20年近く前のことである。
 当時「週刊少年ジャンプ」400万部発行を誇る日本の漫画水準から見れば、まだまだ低位置にあった韓国の劇画界は、彼のこの作品の日本語訳によって、大胆にそのイメージを塗り変え始めた。
 それ以後韓国漫画は日本の劇画界の壁面をなぞりながら静かに、悠々とそして着実に浸透しはじめ、劇画産業で苛烈な競争を強いられながらスリルとサスペンス、セックスとバイオレンスの絡んだ即物的で安易なストーリーを追わざるを得なくなった日本の漫画家と読者層を根底から揺さぶっている。
 またその一方では純愛ものに着目して、金童話の「愛が舞う場所-梨花物語-」(田嶋きよ子他・共訳、双葉社‘97刊)を送り出したり、韓国の大家族の人間模様をコミカルに描く黄美那の「李さんちの物語」(戸田郁子訳、‘98刊)を重刷したりしながら、その地位を手堅く不動のものにしつつある。
 この度、韓国の人気漫画を定期的に出版している<Tiger Comics>が、韓国の出版社「大明鍾」の原版をもとに多重刊行を開始し、第二のブームを作り始めた。
 これは日本の大衆文化の解禁に呼応して、日本への憧憬と羨望、それを超越しようとするより強烈なハングリー精神で「韓国的リリシズム」を推し進めようとするスタハノフプレイの表出ではないかと評されている。
 この中には、14世紀後半の中国元末期を背景にした純愛武術物語である金恵?の「ピチョム(飛天舞)」や、儒教精神が強い韓国で過激なエロスとギャグのとんでもない波長を流す爆笑度200%の梁栄淳の「ヌードルヌード」などが注目されている。殊に梁栄淳は、韓国漫画界に現われた超新人であるだけでなく、韓国から地球に発信されたまさに「2 1世紀のデカメロン」にふさわしいと過分な評価を得ている。
 また朝鮮朝時代を舞台にして、訳ありの「妓生」に入門した二人の少女が相互にライバル意識をもって朝鮮一の妓生になろうと誓い合う、キーセンの風流と悲哀を美しい筆致で描く金童話の「キーセン物語」は、先の「愛が舞う場所」と共に説得力のある作品と言えるだろう。
 その他、許英萬の「セールスマン」、元透蓮の「フルハウス」、韓丞媛の「あなたの恋人」、朴姫貞の「ホテルアフリカ」等がある。
 こうした一連の動きは、韓国の映像文化とアニメによる大衆文化への啓蒙が、若い世代を中心に急ピッチで拡大されているだけでなく、アジアへの映像市場の開拓が着実に進んでいることを確実視する証左ではないかと思われる。



Copyright (C) 1997 copyrights.kitajuujiseibungaku All Rights Reserved.