韓 丘庸





「韓国ミステリー」の課題と展望(2)

   趙霊岩は「韓国作家代表伝」(ソウル修文館、'53刊)で、10人の作家を精選したが、その中で探偵推理作家の金来成を取り上げ、次のように述懐している。
 「探偵小説が何なのか理解できずにいた当時(1933年)朝鮮のジャーナリズムが彼の『仮装犯人』を掲載するはずも無かった。
 原稿が何ヶ月間も洪起文の机の中で眠っていた時、丁度『楕円形の鏡』(日本の懸賞募集で佳作入選した作品)が日本で単行本になり、30部ほど送られて来た。
 この本を盧東杢に贈り付けたところ、それが大きく啓蒙的役割を果たしたのか、朝鮮日報の文芸部次長であった李源朝の推薦で朝鮮日報に連載することになったのである。
 これはまさに朝鮮日報始まって以来、初めて探偵小説という〈小説〉を連載することになった画期的な出来事であった)と。
 方仁根が『魔都の火』で、ソウルの街を火の海と化した妖しくも美しく悲しいヒロインの恋愛と殺人の「非目常性」をリアルに描き、金来成の『白仮面』を世に間うて以来韓国のミステリーは大きく変容した。
 今、「韓国推理文学作家協会」は、世界のミステリー文学状況をにらんで、大きく軌道修正を迫られ、変革を余儀なくされている。
 このたぴ翻訳出版された『コリァン・ミステリー(韓国推理小説傑作選)』は、日本に初めて紹介されたもので、現在の韓国ミステリーを知る上で資料的価値があり、日本のミステリーとサスペンスヘの文学的  ライバルとして国境を越える目を目指している事が覗える。
 この傑作選には、「本当の復讐」(黄世鳶)、「訪間者」(金楠)、「ブラック・レディー」(魯元)、「失踪」(金聖鐘)、「地獄への道行き」(李祥雨)、「いとしのシンディ・クロフォード」(金尚勲)、等その他、 計13編のオーソドックスで独特な韓国ミステリアスな雰囲気の漂った作品を網羅して、興味のわくように編集されている。
その辺の事情を協会の副理事長である金聖鐘氏は序文でこう指摘している。
 「推理小説の歴史も浅く、作家層或いは読者層においても、そのいずれもが貧弱な韓国の作家の立場からすれば、すぐ隣の国で大勢の日本の作家が活躍されていることは、少なからず励みになっていることであり、 このこともまた認めるところです。
 この感覚の内には国籍は異にすれども同じ道を歩んでいることからくる文学上の親近感と安らぎの感情そしてよい意味での競争意識のようなものも含まれているであろうと思うのです」 日本のミステリー界のアジアに与える影響もさることながら、韓国の文学界が新しい活路を求めて推理小説の登竜門といわれる金来成推理文学賞をはじめ、韓国推理文学賞及び新鋭賞・新人賞、スポーツ・ソウルの 「新春文芸」推理小説部門賞「小説文芸杜」の長編推理小説賞等々を創設、拡大を図っていることもいい意味では大きな刺激になるだろう。
 ともあれ、ミステリーサスペンスが韓国杜会で認知され、市民権を得るには虎まだ幾つも厳しい「アリラン峠」を越えねばならないのではないだろうか。

『コリアン・ミステリー』(祖田律男・他訳)バベルプレス(‘02刊)定価1,500円


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